久しぶりに花を買った。
 紅い薔薇。綻びかけた、五つの蕾。
 包み込むように優しく抱えて、家路を急ぐ。
 時折ふわりと鼻先を掠める香りが、私に小さな幸せをくれる。
 ひっそりと静まり返った路地が、やけに明るい。

 「ああ、そうか。今夜は・・・」

 横に視線を上げると、眩いほどに輝く満月。
 薔薇の香りに包まれながら、暫し見蕩れる。
 ふいに、あなたに逢いたくなった。
 今。ここに、あなたがいてくれたら。
 そんな想いを遮るように吹き抜けた風は、ほんの少し、雪の匂いがした。