午後のコーヒーをあなたと
コーヒーメーカー、ミル、ブレンド済みのコーヒーにコーヒー豆・・・。
いつの間にかキッチンで幅を利かせているモノたち。
どれも、自分で購入した覚えは、ない。
こんなに増やして、どうしろっていうのよ。
私が好んで飲むのは紅茶で、コーヒーはあまり飲まないのに。
心の中で文句を言いながらも手は止まらないのは、生真面目であるが故だろうか。
ミルでコーヒー豆を挽きながら、リビングの聖を見る。
先程と変わらず、フローリングの床の上に直に座って、テーブルに広げた問題集と睨めっこしている。
今にも唸りだしそうなくらい眉間に皺が寄っているのが、横顔でもわかった。
あの聖がそれほどまで手こずる問題。
興味は少しあるけれど・・・。
「どうして法学部の私が、英米文学科の聖に勉強を教えなきゃいけないのよ」
コーヒーメーカーにフィルターをセットして、挽きたての粉を入れる。
いい香り。
「だって蓉子、どの教科も得意じゃない」
聖はこちらへ視線すら寄こすことなく答えた。
一応、問題に集中しているらしい。
その姿勢は褒めてあげよう。
「高校とは問題もレベルも違うでしょう」
苦笑しながら、水を入れてスイッチを押す。
すっかり慣れてしまった作業を終えて、聖の隣へと戻った。
「あ〜、もうだめ。飽きた」
座ったとたんに、聖が身体を預けてきた。
「なに言ってるの。ちっとも進んでないじゃない」
もうずっと同じところが開かれたままの問題集を覗き込みながら、肩に凭れている聖の身体を押し戻す。
その私の手をすり抜けて、聖の頭が膝の上に落ちた。
「ちょっと、聖!」
「気持ちいいー」
床に寝転んで、私の足に頭を乗せて。
しっかり膝枕の姿勢をとられてしまった。
聖を真下に見下ろす、というのは、なぜだかいまだに照れてしまう。
「ようこ〜。いい加減、慣れてくれてもいいんじゃない?」
仰向けになって、聖が見上げてくる。
からかうようなその視線が恥ずかしくて、目を逸らした隙に。
「そんなところも可愛いんだけどね」
そう言いながら聖は身体を捻り、腰に抱きついてきた。
「もう。聖、起きて!」
恥ずかしさを紛らわせるように、両手で髪をくしゃくしゃにしてやる。
おなかにくぐもった声が響いてきたけど、何を言ったのかわからなかった。
そのまま少しだけ、静かな時間が流れた。
いつの間にか、手が自然に聖の頭を撫でている。
「・・・聖。寝たの?」
返事がない。
コーヒーメーカーがしゅうっと音をたてて、部屋中に香りが漂う。
「コーヒー、入ったわよ?」
「・・・・・・あとでいい」
ぽんぽんと軽く頭を叩くと、やっとのことで眠そうな声が返ってきた。
どうやら本当に寝るつもりでいたらしい。
「もう。あなたが飲みたいって言ったんでしょう」
呆れながら膝を立てると、聖は渋々身体を起こした。
寝ぼけ眼でちょっとだけ拗ねた顔がなんだか可愛くて、こっそり微笑む。
「けちー」という声を聞きながらキッチンへ向かい、棚からカップをふたつ取り出す。
聖がコーヒー豆と一緒に買ってきた、お揃いのマグ。
なんとなくくすぐったいような恥ずかしさがあるけれど、デザインがシンプルで気に入っている。
自分用のミルクを一緒にトレイに乗せて戻り、テーブルの問題集をひとまず脇へ追いやる。
「はい、どうぞ」
ソファを背もたれにして座っている聖にカップを手渡してから、
最初のひとくちは、そのままブラックで飲んでみる。
苦さが口に広がって、香ばしい香りが鼻を抜けた。
「どう?」
「少し苦いわね」
覗き込むようにして訊いてきた聖に答えながら、ミルクに手を伸ばす。
「マンデリンは苦味が強いからね。でも、それがいいんだけどなぁ」
最近このコーヒーがお気に入りらしい聖は、相変わらずブラックで飲んでいる。
「私は、この前飲んだコーヒーのほうが美味しかったと思うけど」
「ブルマン?そりゃあ、最高級品だからね・・・」
言いながら聖は何か思いついたらしく、意味深ににやりと笑った。
「それってもしかして、夜明けのコーヒーのほうが好きってこと?」
思わぬセリフに、スプーンを回す手が止まる。
「なっ、なに言ってるのよ!そうじゃなくて!」
こんなちょっとしたことで、必要以上にうろたえてしまう自分が恨めしい・・・。
「それに、夜明けどころかだいぶ太陽が昇ってからだったじゃない。あなたがなかなか起きないから・・・」
そこまで言ってから、聖がにやにや笑っているのに気づいた。
「・・・もうっ」
ぷいっとそっぽを向くと、とうとう聖は声を上げて笑いだしてしまった。
どうしてこのひとは、いつもこうして私をからかって遊ぶのだろうか。
「ごめんごめん。怒らないでよ。蓉子ちゃん?」
反省のカケラもない声が、耳のすぐ傍で響く。
「次は私がとびっきり美味しいブルマン入れてあげるから。許してよ。ね?」
そんな囁きひとつで機嫌を直してしまう自分も、どうかと思うけれど。
軽くため息をつきながら顔を戻すと、まるでそのタイミングを計ったように。
一瞬だけ触れて離れた唇から、マンデリンがほのかに香った。
「お詫びのしるし」
「・・・・・・ばか」
にっこり笑う聖を見ながら、明日の朝は絶対に聖より先には起きないでおこうと決めた。
これでもほのラブなんですっ(主張)
とりあえず、王道の膝枕をしてもらいました。
まぁどうということはない、ふたりでコーヒーを飲むお話だったはずなのですが・・・。
バカップルに走りきれなくてスミマセン(汗)<先生へ
ていうか蓉子さま。聖さまは「朝入れる」なんて一言も言ってないんですけど(笑)
コーヒー中毒者の私は、ブルマンももちろん好きですが、最近はマンデリンがマイブーム。
なので、勝手に聖さまにも好きになっていただきました(爆)
......2004/3/21