「聖・・・」
 囁くように名前を呼ぶ声の甘さに、どきりとした。
 少しだけ早くなってしまった鼓動を抑えるように。
 わざとため息をこぼしながら、私の肩に凭れている蓉子を覗き込む。
「蓉子、飲みすぎなんじゃない?」
「平気よ」
 ゆるやかに微笑むその唇は。
 まるで喉を滑り落ちたワインの色が、移ってしまったかのような紅さ。
 普段は白い肌がほんのり朱に染まっているのと相まって、やけに艶っぽい。
「もう止めておいたほうがいいよ」
 蓉子の手からグラスを取って、テーブルに置いた。
 ソファへと身体を戻した私を迎えたのは、なにか言いたげな瞳と唇。
「なに?」
 本当は、聞かなくても分かってる。
 ―キスして
 そう誘っている。
 熱を帯びた蓉子の瞳。
 その媚態の威力を、彼女は自覚しているだろうか。
 うっすらと開かれた唇に、誘われるままに・・・。
「―せ・・・だめ・・・」
 小さな囁きと共に、肩口に添えられていた蓉子の手が、ゆるくシャツを掴む。
「どうして?」
 至近距離で見つめた彼女の顔は、つい先程よりも紅みを増している。
「・・・酔ってるから」
 本当は酔ってなんかいないことなんて、分かってるのに。
 この期に及んでまだ照れてしまう蓉子が、とても可愛くて。
 溢れるいとおしさを込めて。
 深く、口づけた。