「キス・ユー」
「んふふふふ」
いけない、思わず気持ちの悪い笑いが零れてしまった……。
ようやくの事、後期の試験が終了して晴れて虜囚の身から解放された為かつい浮き足立ってしまった。
「まだかなぁ」
駅前のバスターミナルを臨むデパートの1階。主に化粧品や、ブランド物を扱うショップが入っている
そのフロアの入り口脇から彼女を探す。
違う大学に通う彼女は一足先に後期試験を終えていたが、リリアンの試験終了まで聖を気遣って彼女
も我慢してくれていたのだ。
「何処を探しているのよ……」
外を見つめ続けていた聖の後ろから愛しい彼女の声が聞こえた。
「蓉子!?」
慌てて後ろを振り向く。
見慣れた、けれど逢うたびに心ときめかせてくれる愛しい人の姿。けれど、2週間前に会った時とは
違う違和感のようなものに一瞬だけ、聖は戸惑った。
今までとたった一つの相違点。
それだけなのに、まるで別人の様にも見えて。
「蓉子……それ……」
「ああ、眼鏡?度は入っていないから安心して」
にこやかに答える蓉子。けれど、蓉子が伊達眼鏡を掛けるなんて……。
「気分転換、かしら。この格好だったら似合うでしょう?」
紺のスーツに少し短めのタイトスカート、そして黒いストッキングに紅のパンプス。
眼鏡のフレームはチタンの地金の赤褐色。
蓉子の漆黒の髪に呑まれるでも、主張しすぎるでもなく、とても似合っていた。
「とても素敵よ」
「有難う」
取って置きの笑顔と殺し文句も、蓉子はあっさりとスルーして歩き出した。
少し肩を落としながら、聖は蓉子についてターミナルへ向った。
時間ぴったりに現れた蓉子は、始発故に既に乗り場の前で停車しているバスにさっと乗り込んだ。
平日のお昼前。現代美術館方面に向う幹線から外れたコースのバスに乗っているのは蓉子と聖の二人
だけだった。
「ご乗車有難うございます……」
ノイズ交じりのテープから流れる柔らかい女性の声がアナウンスを始めると、甲高い排気音と共にバ
スはターミナルを離れて走り出した。
「誰も居ないね」
「運転手の方が居るわ」
「運転中は見てないわよ」
あからさまとも思える態度で、蓉子の肩に顔を寄せて耳元で囁く。
最後に会ってから2週間、その間に電話すら禁止されていた反動からか、聖は自分でもやり過ぎかと
思える位に蓉子にベタベタしている。
「もう……」
あまり見せる事の無い、すこしふてくされた蓉子の横顔。
多分、この顔を見ることが出来たのは蓉子のお姉さまと祥子、そして聖だけだと思う。
蓉子にとって特別な存在。
それは何にも勝る、素敵な居所だった。
「愛してる……」
そう耳元でそっと囁いて、掛けられた眼鏡のフレームに口付けをした。
「……聖、あのね」
可愛く睨みつける蓉子に笑顔を返しながら、肩に回した手をそっと引き寄せて再びキスをする。
今度はその紅く、艶やかな唇に……。
エデンの園の十字架の黄山さまより頂きました。
眼鏡蓉子さまに激しく萌えて・・・とのことで書いてくださったものです。
私はこの眼鏡蓉子さまに激しく悶えました・・・。
黄山さま、ありがとうございました♪