学生さんにとって、今はまだいわゆる夏休み。
蓉子さまも夏を満喫・・・とまではいかなくても、それなりに大学生らしい夏休みを過ごしておりました。
そんなお休みも終盤にさしかかり、九月になって日中の気温もだいぶ落ち着いてきたある日のこと。

「さすがにまだ暑いわね」

蓉子さまは果敢にもエアコンをつけずに窓全開でお掃除をしています。
てきぱきと片付け掃除機をかけ終えたとき、ちょうどよく洗濯機がピーっと音をたてました。

洗いたてのシャツやらなにやらをカゴに入れてリビングに戻った蓉子さま。
ソファに腰掛け、エアコンのスイッチを入れてほっと一息つきます。
ふと、テーブルの上に放り出されたままの携帯電話が目につきました。
ウインドウには日付けと時刻。
着信がなにもないことを確認してつい零してしまったため息は、どうやら無意識のもののようです。
蓉子さまはそれを手に取ってメール送信画面を出し、なにやら打ち始めました。

ここ数日、どこをうろついているのか通い猫は姿を現しません。
昨日はメールすらきませんでした。

 まったく、どこで遊んでるんだか。
 ・・・加東さん、っていったっけ。彼女と一緒なのかしら。

ボタンを操作しながらなんとなくムッとしているのも、どうやら無意識のようです。
送信を押そうとして、手が止まりました。

『今日も来ないの?』

 ・・・これじゃ、来てくれるのを待ってるみたいじゃない。

ぱたんと電話を閉じて、そのままソファに転がりました。
そのまま送信すれば、きっと喜んで来てくれるでしょうに・・・。
どうしても素直になれないのも、蓉子さまの可愛いところです。

 気持ちいい。

少しずつ室温が下がり快適になると、蓉子さまはウトウトし始めました。

 洗濯物、皺になっちゃう・・・・・・。

そう思いつつも睡魔には抗えず・・・。
それが、いけなかったのです。


しばらくの後、物音に目を覚ますと。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

聞きなれた声がすぐ傍で聞こえました。
目の前に、件の通い猫がいます。

「・・・聖?」

「めずらしいね。蓉子がソファで転寝なんて」

そう言う聖さまは楽しそうで、それがなんだか癪に障った蓉子さま。

「昨日はどこに行ってたの?」

ついキツイ口調になってしまいましたが、聖さまはなぜか嬉しそうな顔をしました。

「あ、心配してくれてた?それとも・・・」

「そんなんじゃないわよ」

「じゃあ、会いたかった?」

そんなことを言ってにやりと笑う聖さまの頬を、蓉子さまはぎゅっとつねってやりました。
痛いなーもう。愛がないわー。なんて言ってる聖さまをさくっと無視して。

「あ、いけない。洗濯物」

蓉子さまはがばっと身体を起こしました。
すると聖さまがつねられた頬をさすりながらにっこり微笑みます。

「あぁ、それなら干しておいたよ。皺になっちゃうでしょ」

見ると、ベランダにはさっき洗ったシャツたちが風にはためいています。
そこでしばし思考を止めた蓉子さま。
不思議に思った聖さまが「蓉子?」と声をかけると、ゆっくりと聖さまに顔を向けました。

「・・・・・・全部、干してくれたの?」

「うん。あ、下着は外に干すわけにはいかないから、ちゃんと中に・・・」

「下着まで干してくれなくてもいいわよっ」

さらりと言ってのけた聖さまの台詞に、蓉子さまの顔が一気に赤くなります。

「えー、どうして?いまさら恥ずかしがることないでしょ?いつも見てるんだし」

「そういう問題じゃ・・・っ!」

真っ赤になって抗議する蓉子さまを可愛いなぁなんてのんきに思いながら、聖さまはさらにデリカシーのない発言をかまします。

「あ、そういえば。あれ、新しいの?ピンクのかわいーの。今度着て見せてね♪」

あ。いまどこかでなにかが切れる音がしましたよ。ぶちっと。

「聖の・・・」

そこではっと蓉子さまの様子に気づいた聖さまですが、もう遅いです。観念してください。

「聖のバカーーーーーっっ!!」

蓉子さまの声と共に、ぱぁんといういい音が豪快に響いたのでした・・・。
合掌。